外傷性変形耳介の治療について
〜 About Post-traumatic Ear Deformity 〜

大江橋クリニックは、外傷をきっかけに耳介が変形する、いわゆる「柔道耳」に類似した変形耳介や、事故・暴力・けがなどにより耳介軟骨の一部が欠損した耳介等を数多く治療しています。
スポーツ外傷による柔道耳は別ページで詳しく解説しています。柔道耳以外の治療については、耳の総合ページから該当部分をお読みください。

外傷性耳介変形の例 (治療前後の写真)
外傷性耳介変形術前 大江橋クリニック 外傷性耳介変形術前 大江橋クリニック 外傷性耳介変形術前 大江橋クリニック 外傷性耳介変形術前 大江橋クリニック

詳しい症例解説はこのページの下の方にあります

外傷によって変形した耳の形を修正する手術

繰り返す外傷で何回も出血し、柔道耳と同じような変形をきたす場合があります。スポーツ外傷の場合は出血する部位や状況に類似性があり、また受傷後に冷却したり耳鼻科で血を抜いたり圧迫したりと、ある程度の治療を受けていることが多いのですが、暴行が長年繰り返されたような場合は軟骨がかなりバラバラに砕けていたり、執拗に同じ場所に打撃が加えられていたりするために、見かけよりも中が激しく傷んでいます。細かく割れた軟骨をできるだけ剥離し、元の位置に整復しながら欠損した部分に切除した軟骨の一部を移植する難しい手術になります。
ただ、多くの患者さんが体質的に肥厚性瘢痕になりやすい柔道耳と異なり、体質的な問題が少ない方は腫れが引いてくると比較的綺麗な形に落ち着いてくることが多いようです。

上記の症例はそれぞれに複雑なエピソードがあり、犯罪や事件に関係する部分もあるのであまり詳しくは書けませんが、こうした症例も大江橋クリニックでは比較的数多く扱っています。
また、以下の柔道耳の解説ページも併せてお読みいただくと、手術の概要について理解が深まると思うので、ぜひご参照ください。

症例1: 手術中の写真は彩度を落とすなど少し編集しています

家人に繰り返し殴打され(DV)両耳介が高度に変形した

症例1:概要
家人による虐待(DV)で繰り返し殴打され、両耳介が高度に変形した症例です。単に圧迫や打撲による血腫ではなく、繰り返し加えられた強い外力により耳介軟骨が複雑に割れ、ズレて重なり合っています。
細かい経過は後回しにしてまずは術前術後を並べてみます。まだ赤みが強く傷跡も目立ちますが、形態はだいぶ改善しました。実際には左側の手術を先に行い、3ヶ月後に右側を手術しています。
写真は 上段左から 右側術前、術後12日目、術後1ヶ月、
    下段左から 左側術前、術後9日め、術後2.5ヶ月。

外傷性耳介変形術前 大江橋クリニック 外傷性耳介変形術後 大江橋クリニック 外傷性耳介変形術後 大江橋クリニック
外傷性耳介変形術前 大江橋クリニック 外傷性耳介変形術後 大江橋クリニック 外傷性耳介変形術後 大江橋クリニック

真横からの写真だけでは表現しにくいので、後ろから撮影した写真の比較です。複雑に折れ曲がって波打っていた耳輪が、術後にはまだ腫れていますが比較的スムーズなカーブに矯正され、腫れが引いた1年後でも形態がある程度保てていることがわかります。
左から、術前、術後7日、術後1年

外傷性耳介変形術前 大江橋クリニック 外傷性耳介変形術後 大江橋クリニック 外傷性耳介変形術後 大江橋クリニック

軟骨の修復法は、右と左ではかなり異なります。
最初に手術した左側は、耳輪がきれいに保たれていたので表面に浮いて見える奇異なジグザグ模様を消すことを目標にしました。そこで通常の耳輪切開ではなく傷跡に合わせてジグザグに皮膚を切って皮弁を起こし、ずれた軟骨を征服して平に縫い合わせることにしました。
写真は左から、
  皮弁の切開デザイン
 >軟骨をずらしておよその位置に修復したところ
 >隙間が開かないようにきっちりと軟骨同士を縫合したところ

外傷性耳介変形術中 大江橋クリニック 外傷性耳介変形術中 大江橋クリニック 外傷性耳介変形術中 大江橋クリニック

右側は、崩れてしまった耳輪をいかに丸くきれいに立て直すかが眼目なので、耳輪の切開線を、縫合した際にきれいなカーブになるように工夫します。(下図左上)
バラバラに割れていた軟骨を整理していくと、おおよその形はできました(下図右上)が、左側に比べて耳介上部の張り出しが少ないようです。一番最初に提示した術前写真を見ても、耳輪の丸みが左に比べて小さく、耳全体が細く見えます。そこで切り取った軟骨を整形して対耳輪の裏側に敷き込むように移植し、耳輪の張り出しを大きくし、丸みを持たせることにしました。
このように、同じ人の左右であっても手術法は全く異なり、その場その場で判断していく必要があるので、毎回が緊張の連続です。
写真は上段左から、
  耳輪の切開デザイン
 >バラバラに砕けた軟骨を剥離して外していきます
 >一旦皮膚を戻してみると少しボリュームが足りません
下段左から、
  耳輪の大きさが足りないことを示します
 >切除した軟骨のうちから使えそうなものを整形する
 >正しい位置に縫合すると耳が大きくなった

外傷性耳介変形術中 大江橋クリニック 外傷性耳介変形術中 大江橋クリニック 外傷性耳介変形術中 大江橋クリニック
外傷性耳介変形術中 大江橋クリニック 外傷性耳介変形術中 大江橋クリニック 外傷性耳介変形術中 大江橋クリニック

打撲により耳介血腫となった場合は、耳介血腫と同様な方法で治療ができますが、稀に虐待や職業性の繰り返す外傷によって軟骨がバラバラに折れたり砕けてしまい、いわゆる柔道耳よりもさらに高度に変形してしまうことがあります柔道耳の治療と同様に治療しますが、折れた軟骨を丁寧に剥離して元に戻すことが可能であれば、比較的高度な変形でもなんとか耳の形態を改善することができます。不幸にして挫滅が強かったり新たに軟骨が増成している場合、削った軟骨のみでは材料が不足し、同じ側か反対側の耳から耳介軟骨の一部を切り取ってきて移植しなければならないことがあります。
柔道耳と比べて、術後に腫れてくることが比較的少なく、耳の厚みも硬さもそれほど長引きません。ただし、単発ではなく出血や挫滅が長期間にわたって繰り返した場合は、柔道耳と同じように肥厚性瘢痕となって仕上がりがごつごつすることもあります。

↑項目の先頭に戻る

症例2: 手術中の写真は彩度を落とすなど少し編集しています

5年間に渡り暴行を受けて変形した耳介の例

症例2:概要
実はこの症例の術後は現在から見ると技術的には不満足で、掲載するかどうか迷ったのですが、研修医を終えて執刀医として一人で手術をするようになって初めて、外傷後の耳介の形成手術を経験した約30年前以上前の症例です。
若い男性ですが発達障害があり、作業所の仲間に恒常的に作業に使う工具で叩かれ、5年間暴行を受けて高度に変形した耳です。聴力低下があり耳鼻科の診察を受けたいが、耳鏡という診察器具が耳の穴に入らない、なんとかならないかと作業所の職員に連れてこられ、外耳道と耳甲介を広げるために手術を行いました。こちらは左耳です。
写真中央は出血も多くきれいな術中写真ではありませんが、内部の軟骨は全く原型をとどめていないことを示しています。写真は紙焼きして患者さん説明用のアルバムに貼ってあったものをiPhoneで撮影し直したので、画質や色味が悪いのはご容赦ください。初めての手術でなんとか耳らしい外観が作成できたので、長らく症例アルバムに載せていました。皮膚自体も瘢痕化していて薄く削ると壊死してしまいそうなため、ごつごつした皮膚をそのまま被せています。

外傷性耳介変形術前 大江橋クリニック 外傷性耳介変形術前 大江橋クリニック 外傷性耳介変形術前 大江橋クリニック

前から見たところです。
中央は切除した軟骨を示します。少なくとも耳鼻科の診察ができる、という条件は満たしてほっとしたものです。

外傷性耳介変形術前 大江橋クリニック 外傷性耳介変形術前 大江橋クリニック 外傷性耳介変形術前 大江橋クリニック
外傷性耳介変形術前 大江橋クリニック 外傷性耳介変形術前 大江橋クリニック

後方から見たところです。
一応耳輪はそれらしく形成できました。経験が乏しく手探りの手術となりました。しかし今当たったとしても難し症例であることに違いはありません。

外傷性耳介変形術前 大江橋クリニック 外傷性耳介変形術前 大江橋クリニック

反対側です。
こちらは凹凸の少ない平坦な耳なので、写真を一見するとあまり変形していないように見えますが、実は耳甲介が完全に塞がっています。こちらは耳甲介部分の軟骨を丸くくり抜くだけで対処し、対耳輪や舟状窩、三角窩などの形成には踏み込みませんでした。この程度であれば大手の美容外科等でも対処できそうです。YouTube動画で見たこともあります。

↑項目の先頭に戻る

症例3: 手術中の写真は彩度を落とすなど少し編集しています

DVによる外傷の例(硬い本による殴打)

症例3:概要
ケガをした直後、あまり日をおかずに受診された患者さんの例としてあげました。しばらく手術せず経過を見て、半年後に腫れが引いて軟骨の変形が固まった後に手術し、改善が見られた例として掲載しました。
家族の男性に電話帳くらいのサイズの大きな固い表紙の本で強く殴られたとのことで、受傷後2週目で受診されたときは、まだ内出血もあり痛みも引いていませんでした。すぐに手術せず、腫れを引かせる内服薬等で治療を続けて経過を見ることにしました。
※ 加害者がいるので治療費の支払いについて確認しました。訴訟にはならず治療費も相手に請求はしないとのことでした。確認しておかないと後で困ることがあります。(後述)
写真左は初診時、右は初診から一年後(術後4ヶ月)の写真です。

実際には以下のような経過をとりました。
上図左が初診時、怪我をして3日目に他院を受診してたまった血を4mlほど抜いてもらったがまた腫れてきたため、もう一度受診するともう固まっており血は抜けないと言われたそうです。痛みがあり耳甲介が腫れて耳が聞こえにくいと訴えがありました。後まだ触ると痛みがある状態なので、消炎剤などを内服してもらい様子を見ることにします。
下図左端は初診後2週間で、赤みが初診時より強くなり腫れもありますが、痛みは無くなってきています。
左から2枚目は3ヶ月目、3枚目は受傷後約半年、ようやく腫れも引き変形も改善してきたかに見えました。
しかしその後、瘢痕が拘縮し(縮み)対耳輪が膨らむとともに耳甲介がますます狭くなり硬さも増してきました。軟骨が増殖してきたようです。右端の写真では耳の穴がほとんど塞がっています。

そこで受傷後7ヶ月を過ぎた頃に手術を行いました。
※ 手術予約の際に、手術料を支払うという男性が話を聞きたいと来院しました。大江橋クリニックでは、手術はあくまで患者さんと当院との契約であり、手術料はご本人から支払ってもらうものであることを再確認し、家族であっても第三者が治療に介入してくることは拒否しました。お金のやり取りはクリニックと関係のないところでやってくださいと説明し、了承されたので手術をすることにしました。

下図左端は耳の裏側にも割れてズレた固い軟骨が突き出していることを示しています。この軟骨は裏側から切除しました。2枚目は耳甲介の軟骨を切除した後にガーゼを詰めて縫合したところです。
3枚目は1週間後にガーゼを除去したところです。耳甲介の切開創はナイロン糸で縫合してあり、まだ抜糸していません。写真を拡大すると糸が見えると思います。形はかなり改善されています。
右端が手術後3ヶ月の写真です。ようやく腫れが引いてきましたがやや拘縮が再発し、対耳輪の軟骨が少し下側にずれてきています。上段の大きな術後写真は更にその1ヶ月後、術後約4ヶ月ですが、さらに少し拘縮して術直後より耳が前方に倒れてきています。おそらく赤みが引くのにはまだ数ヶ月かかると思いますが、本人の希望もありこれで治療を終了しています。

↑項目の先頭に戻る

症例4: 手術中の写真は彩度を落とすなど少し編集しています

症例4:犬に噛まれて耳輪軟骨が欠損した耳介の例

症例4:概要
この症例は比較的最近の耳です。まだ赤みがあり治療中ですが、少しタイプの違う症例として掲載しました。
飼い犬に噛まれ耳の上端を食いちぎられてしまいました。近所の耳鼻科で治療を受け、傷は治りましたが形は元に戻せませんでした。
皮膚も軟骨も不足していますので、皮弁の形を工夫するとともに耳の内側から外側に一部の軟骨を移動させ、なんとか耳らしい丸い縁が作成できました。

外傷性耳介変形術前 大江橋クリニック 外傷性耳介変形術前 大江橋クリニック

↑項目の先頭に戻る

耳介形成手術のあらまし

大江橋クリニックでは、柔道耳などの変形耳介の修正手術を積極的・専門的に行っています。外傷による変形耳介の場合、多くは皮膚も挫滅などして傷んでいますので、硬く凸凹した皮膚からのアプローチで軟骨を綺麗に露出するまでに時間がかかることが多く(通常ここまでで1時間以上)、手術終了まで3時間以上かかることもあります。
割れたり増殖したりして硬くなった軟骨を彫刻して耳の形を削り出していくような手術になりますが、その後上に被せる皮膚も部分により厚みが違ったり傷痕があり血流が不安定であったり、良い状態でないことが多く、表皮が壊死したり術後に縮んだりすることがあります。このため、術後も長期間の通院をお願いすることになります。
手術予約日は通常1ヶ月程度先になります。手術当日は車の運転、入浴はできません。翌日再診していただき、問題なければ入浴や洗髪は可能になります。軟骨を削る手術はどうしても術後に痛みが出ます。鎮痛剤を処方しますが、当日翌日は触らなくても痛いです。痛みは日毎に少なくなります。
通常1週間後に抜糸、あとは定期的に通院していただき、数ヶ月経って傷跡が綺麗になってくれば通院は終了となります。

傷んだ耳介はきれいに治すのがとても難しい

高度に変形した耳介の手術は、一言で言って難しいです。ケロイド体質やアレルギー・アトピーなど体質的な原因がある場合も多く、手術直後はきれいに出来上がったと思っても、術後時間が経って術後の腫れが引いていくと徐々に耳介が変形して、肥厚性瘢痕の状態になることもよくあるからです。
耳介の肥厚性瘢痕に関してはあまり資料がありませんが、体質的な原因が主体だと思います。そもそも柔道耳になってしまうこと自体が、体質的なものかもしれません。

通常の術後であれば腫れが引いて形が落ち着いてくる数ヶ月目頃になって、かえって赤みが増し、腫れぼったく厚みも出てくる人がいます。
半年ほど経ってようやく赤みと腫れが引いてくると、今度はずっと腫れていた皮膚がしぼんでくるために、予期せぬところにシワが出てきたり、軟骨を縫った糸が緩んで移植軟骨がずれるなど、予定した形に落ち着いてくれません。手術を試験に例えると、100点取ろうと思って頑張ったのですが出来上がりが80点の人も60点の人も出てきてしまいます。一度できれいに治すのが難しいことがあり、再手術になる場合もあります。

※  再手術の場合、時間をおいて改めて診察の上、規定の料金で手術を行なっています。

様々な工夫で良い成績を目指していますが、今のところそれが現状であることを告白しておきます。

↑項目の先頭に戻る

1