【 完全予約制 】
大江橋クリニックは、様々な原因で耳介が変形する、いわゆる「柔道耳」に類似した変形耳介や、アトピー・ピアス後皮膚炎などにより耳介軟骨の一部が変形・増殖したり溶けたりした異常な形の耳介等を数多く治療しています。このページでは主に耳介血腫・耳介偽嚢腫について説明しています。
スポーツ外傷による柔道耳は別ページで詳しく解説しています。柔道耳以外の治療については、耳の総合ページから該当部分をお読みください。
詳しい症例解説はこのページの下の方にあります
打撲やスポーツなどの強い衝撃により、耳介軟骨と軟骨膜との間に出血すると、軟骨膜の内部に血が溜まり耳が変形して膨れてくる事があります。耳介軟骨の中には血管がないので、基本的に軟骨の内部に出血することはありません。軟骨膜が軟骨から剥がれ内側から圧迫されて強い拍動性の痛みを生じます。
きわめて早期(できれば受傷後数時間から長くて1日程度)であれば、内部に溜まった血液を抜き、麻酔の注射をして裏と表からキルティングのように糸で縫い合わせる事で手術せずに元に戻すことができます。(この治療法は保険適応の項目がありません。溜まった血を抜く処置しか明示的に認められていません。ですから耳鼻科の先生がこの処置をやってくれたらかなり幸運です。)
圧迫しておく期間は最低1週間は必要です。時々、耳鼻科のお医者さんに指で押さえておけといわれた、とか、スポンジをテープで止めて明日まで外すなと言われた、とかいう患者さんが、度重なる再発に困って受診されるのですが、そんなに短時間でくっついてしまうような簡単なものではありません。縫合しない場合、何度も再発することが少なくありません。というより再発はほぼ必発です。しかし、定期的に吸引しながら圧迫を続けていると、完全にではありませんが腫れは引いてやや厚みを残して治癒します。
吸引・圧迫で手術せずに引かせた例
再び血が溜まらないように皮膚と軟骨膜の一部を切除したり、ドレーン(管)を通して穴を開けたままにしておくのも有効な手段ですが、しばらく血が流出してくるためガーゼを頻回に交換するなど術後の処置が煩わしいことがあります。
ある程度時間が経つと、血液の細胞成分が破壊吸収されるとともに、炎症により周辺組織が瘢痕化して軟骨膜の直下に新たに薄い軟骨ができ、永続的なカプセルが形成されて中に体液がたまった状態が続き、「嚢腫(袋のできもの)」のように安定化してしまいます。さらに内部に軟骨細胞が増殖して塊状の軟骨を形成し、固くなりいわゆる柔道耳のように変形してきます。こうなると、軟骨の一部を切除して形よく削りなおし、耳の形を再建するしかなくなります。膨らんだ前面の軟骨をきれいに切除することがしばしば治療の決め手になります。
※ 耳介血腫やこの下で説明する偽嚢腫は、比較的早期に手術するとほぼ完全に元どおりになります(下の症例写真参照)。
耳介血腫と似た疾患に「耳介偽嚢腫」があります。臨床の現場では、耳介血腫と区別されずに治療されていることが多いようです。
しばしば混同されて記述がちぐはぐになっていることがあり、耳鼻科医のサイトや医療専門のサイトでも両者を区別しないためわかりにくくなっている場合があります。
治療法は耳介血腫と同様ですが、圧迫だけで軟骨が接着することはまず望めないので、変形した軟骨を部分切除する手術が必要です。
耳介偽嚢腫の特徴は(1)外傷の既往無く発症(しばしば原因不明)、(2)ほとんどの場合無痛、(3)吸引しても血液成分はなく黄色い液体のみ、(4)内部に上皮成分がなく嚢腫(ふくろ)ではない(軟骨の中にできた裂け目)、(5)男性に多い、(6)耳の上部に発生することが多い、(7)両側に発生することが多いが同時ではない、というものです。
耳介偽嚢腫は1966年にEngel D.が世界で初めて報告したもので(Pseudocysts of the auricle in Chinese. Arch. Otolaryngol. 83:197-202 1966)、日本では1987年に小宗らによって初めて報告されました(耳鼻と臨床 33:789-791 1987)。特にはっきりした外傷の既往がなくても起こり、いわば突然耳が腫れてくるもので、内容液も血液ではなく黄色調透明ないわゆるリンパ液です。無痛性のことが多いようです。更に内部の細胞が増殖して不完全な軟骨を形成し、いわゆる柔道耳のように軟骨の塊を形成することもあります。(上の柔道耳参照)
軟骨細胞から放出されるLDH4, LDH5, IL-1, IL-6 などにより、慢性の炎症による軟骨破壊と軟骨増生が同時に起こり軟骨内に隙間ができる(intracartilagenous space formation)ことが誘因になるという説があります。表と裏の2枚に軟骨が剥がれてその間に液体が溜まるのが特徴です。
耳の軟骨は成長に伴い前葉と後葉の二枚の軟骨膜の間に複雑な形が形成され、実際には一枚の板状の軟骨ですが、耳介偽嚢腫などの手術をしていると、まるで耳介軟骨がもともと2枚あるかのようにきれいに表裏2枚に分かれた軟骨の間にリンパ液が溜まっていることがよくあります。そのサンドイッチ状の軟骨の周囲をぴったりとラップしたように丈夫な軟骨膜が覆っています。
症例1:概要
工事現場で角材が当たった後腫れてきたように思うとのこと。ヘルメットを被っていたので痛みはそれほどなく、腫れた形のまま放置していたら時間が経ってしまった。一見新しい血腫のように見えるがカチカチに固く、触っても痛みは一切ない。
耳輪切開から血腫(または嚢腫)を切除することにしたが、前後2枚に分かれた軟骨の間にはヌルヌルとした粘膜のようなものがあるだけで血液の痕跡なく黄色い液体が溜まっていました。外側の軟骨部分をきれいに切除して内側に残った軟骨の上に皮膚を戻し、縫合したところ変形なく完治しました。
よく話を聞いてみると、以前左側にも特に原因なく同じようなものができ、現在は軟骨化して柔道耳のようになっているが、スポーツ等でなったものではないとのこと。今回も特に痛いというほどのことはなかったそうです。角材が当たったというエピソードから耳介血腫と思い込んだが、耳介偽嚢腫と診断するのが正しかった症例です。
症例2:概要
アトピーがあり掻いていたところ、10年ほど前から左耳の上部が盛り上がってきた。耳鼻科で何度も「血?」を抜いたが改善せず固まってしまった。痛みがないので数年放置していた。耳甲介が狭くイヤホンが入りにくい。
硬い軟骨を削り取り耳甲介を広げた。しばらく腫れて硬かったが徐々に治まり、3ヶ月ほどで耳全体が柔らかくなった。半年経過を見て治療を終了した。
左から術前、手術時のデザイン、術後3ヶ月の写真。
症例3:概要
重度のアトピーがあり掻いていたところ、数年前から両耳介が変形してきた。一度腫れたところが引いて、奇異な盛り上がりが残った
並行な峰の盛り上がりを、皮膚を取り除いてから平にならし、その上から皮膚をかぶせた。耳輪の形が出るように圧迫して、皮膚炎は内服でコントロールすると、あまりトラブルなく自然な形に落ち着いた。
上段 左から術前、手術時のデザイン、縫合直後。
下段は 翌日、1週間目、3ヶ月目。
外傷や掻爬などの記憶が無く、朝起きると腫れていたそうです。治療法は症例1と同じで2枚に分かれた軟骨の外側を切除し皮膚を戻します。右図は抜糸直後でまだ腫れて赤みがあります。
上の症例は血腫などに続発したものではありませんが、軟骨膜炎で軟骨が溶けて吸収されてしまった例です。軟骨ピアスを開けたが化膿して、何度も膿を抜いているうちに変形したということです。
この症例では崩れて溶け残った耳介軟骨を切除し、位置をずらし移植して形を整えましたが、支える力が不足して時間経過とともにやや後戻りして、シワがよってしまいました。
大江橋クリニックでは、柔道耳などの変形耳介の修正手術を積極的・専門的に行っています。外傷による変形耳介の場合、多くは皮膚も挫滅などして傷んでいますので、硬く凸凹した皮膚からのアプローチで軟骨を綺麗に露出するまでに時間がかかることが多く(通常ここまでで1時間以上)、手術終了まで3時間以上かかることもあります。
割れたり増殖したりして硬くなった軟骨を彫刻して耳の形を削り出していくような手術になりますが、その後上に被せる皮膚も部分により厚みが違ったり傷痕があり血流が不安定であったり、良い状態でないことが多く、表皮が壊死したり術後に縮んだりすることがあります。このため、術後も長期間の通院をお願いすることになります。
手術予約日は通常1ヶ月程度先になります。手術当日は車の運転、入浴はできません。翌日再診していただき、問題なければ入浴や洗髪は可能になります。軟骨を削る手術はどうしても術後に痛みが出ます。鎮痛剤を処方しますが、当日翌日は触らなくても痛いです。痛みは日毎に少なくなります。
通常1週間後に抜糸、あとは定期的に通院していただき、数ヶ月経って傷跡が綺麗になってくれば通院は終了となります。
高度に変形した耳介の手術は、一言で言って難しいです。ケロイド体質やアレルギー・アトピーなど体質的な原因がある場合も多く、手術直後はきれいに出来上がったと思っても、術後時間が経って術後の腫れが引いていくと徐々に耳介が変形して、肥厚性瘢痕の状態になることもよくあるからです。
耳介の肥厚性瘢痕に関してはあまり資料がありませんが、体質的な原因が主体だと思います。そもそも柔道耳になってしまうこと自体が、体質的なものかもしれません。
通常の術後であれば腫れが引いて形が落ち着いてくる数ヶ月目頃になって、かえって赤みが増し、腫れぼったく厚みも出てくる人がいます。
半年ほど経ってようやく赤みと腫れが引いてくると、今度はずっと腫れていた皮膚がしぼんでくるために、予期せぬところにシワが出てきたり、軟骨を縫った糸が緩んで移植軟骨がずれるなど、予定した形に落ち着いてくれません。手術を試験に例えると、100点取ろうと思って頑張ったのですが出来上がりが80点の人も60点の人も出てきてしまいます。一度できれいに治すのが難しいことがあり、再手術になる場合もあります。
※ 再手術の場合、時間をおいて改めて診察の上、規定の料金で手術を行なっています。
様々な工夫で良い成績を目指していますが、今のところそれが現状であることを告白しておきます。