形成外科とは
形をなおすのが形成外科
簡単に言ってしまえば、形成外科(plastic surgery)は形を治す医療です。
プラスチック・サージェリーのプラスチックとは、plast(何かの元となる、形のはっきりしない物体を表す)が元となってできたことばで、plasterといえば石膏、しっくい、絆創膏のように隙間を埋めたりものをくっつける素材、plasticsになると柔らかくていろいろな形に整形できる粘土のような化学物質を表します。
プラスチック・アート(plastic art)といえば彫刻や彫塑、造形美術のこと。このアートをサージェリー(外科手術)に変えたものが形成外科になります。
つまり、形成外科手術とは、人体に手を加えて損なわれた部分を補い、人体そのものをできるだけ理想に近い形に仕上げること、というイメージを持っていただければおおよその雰囲気はつかめるでしょう。
形成外科では、まず形ありき、という考え方をします。顔でも体でも手足でも、正常な(あるいは通常の)形と異なっていれば、それを元に戻すために様々な手段を講じます。形成外科の手術をしばしば「再建」といい、「形成・再建外科(prastic and reconstructive surgery)」とも呼ばれるのはそのためです。
Plastic Art(彫塑)の例
形成外科はこういうことを実際の患者さんに対して行なうわけです。
Philippe Farautという彫刻家のdemo(you tube画像です)
形成外科/整形外科/美容外科の違いについて
形成外科は、歴史的に比較的新しく登場した科であると同時に、日本では整形外科と名称が似ているために、よく混同されます。守備範囲も全身に及び、扱う臓器も内蔵、骨、筋肉、皮膚から耳や瞼、口の中まで幅広いため、名前を見ただけでは何をやっているかわかりにくい診療科です。
整形外科
→ 整形外科はその英名orthopaedicsが脚(paedis)を真っ直ぐに(ortho)治すという意味から来ており、そのシンボルマークが曲がった木を真っ直ぐな添え木に縛り付けて矯正している図である事からもわかる通り、骨や関節,筋肉といった運動器を扱いますが、主に形態よりも機能(働き)を重視する科です。
美容外科
さて、そこに美容外科が登場です。
美容外科が日本に登場したとき「美容整形」という呼び名でマスコミに定着してしまい、「整形」というと美容手術のことと思われる事態が現在も続いています。
そして、今では考えられないことですが、美容整形が何かいかがわしいもののように扱われた時代には、形成外科では美容を扱わないと取り決めていた時期がありました。
その時期には「形成外科と美容整形は別もの」という宣伝がなされました。しかし時代が変わり、美容手術は形成外科の重要な一分野と位置づけられるようになり、さらには美容を専門分野とする「美容形成」を名乗るクリニックが登場したりして、ますますややこしくなっています。
現在では、美容外科も(健康保険の適応はありませんが)一つの独立した診療科と位置づけられており、形成外科の扱う領域の一つとしての美容外科と何が異なるのかは難しい問題です。
どちらにせよ、現在のところ「もっぱら美容のみ」の目的で行なわれる治療は、形成外科的な技術を用いた場合であっても健康保険の対象にならないことは変わりません。しかし、形態を自然に整える事を目的とした「形成外科」にあっては、美容的にも満足できる結果を目指すのは当然であり、どこからが「もっぱら美容のみ」という事になるのかも、そう簡単には線を引けません。
美容を冠した各科の登場
最近、標榜科(看板に掲げてよい診療科の名称)の規則が大幅に変わり、「美容」は他の診療科の頭に付けて形容詞のように用いてよいことになりました。従って、既に一般的に用いられるようになった美容皮膚科、美容内科はもとより、今後は美容眼科や美容耳鼻科、美容小児科や美容産婦人科、そして本当に「美容・整形外科」が現れる可能性も出てきました。
(更に、中国では整形外科といえば日本の形成外科を指しますから、もうこの混乱を分かりやすく収めるのは絶望的です)
形成外科は社会復帰を助ける手段
歴史的には、形成外科は、戦争で手足を失ったり顔面にひどい傷を負った人たちの社会復帰を助ける、という形で発展しました。先天異常(奇形)や大やけどなどで、社会的に受け入れられがたい容貌を持つことになった人々を「正常な」外観に近づける手術もその守備範囲です。
本来皮膚科で扱われるのが自然に思える、生まれつきの「あざ」のレーザー治療が、形成外科の重要な分野となっているのも、こうした経緯によるのでしょう。
そうした場面では、「正常」の水準は概して低く、一般の人々にようやく受け入れてもらえる程度でも、「随分ましになった」だろうということになりがちです。衣服にたとえれば、袖がなかったり左右の形が違ったりするのはNGだが、ツギが当たっていても違う布地で継いであっても「何とか着られるだろう」という水準です。
どこまでが正常の範囲か
治療を終えた人が本当に自信を持って社会に出て行くためには、人目を引くようであっては困ります。ツギを当てるにしても、つなぎ目がわからないぐらいきれいに仕上げなくては意味がありません。しかし、いくらきれいに修復しても、そこにできた傷を本当に消してしまう事はできません。
更には、「正常とは一体何か」という厄介な問題が出てきます。例えば指の数が5本ではなかった場合、6本なら多指症、4本なら少指症として、「先天異常」に分類し、可能ならば赤ちゃんのうちに手術してしまいます。もちろんそうした場合は健康保険の適用が受けられます。では、指が短い場合は、指が太い場合はどうでしょう?どのくらいなら異常でしょうか。
鼻はどれくらい低かったら、眼はどれくらい小さかったら異常でしょうか。交通事故で潰れた鼻を修復したら、「私は生まれつきもっと鼻が高かったのに」と言われたらどうでしょう?もっと高くするのは「再建」でしょうか「美容」でしょうか?
こう考えると、形成外科と美容外科はその境目が明らかでなく、なだらかにつながっているように思えます。すると、どこから保険を適用すべきか、という形成外科医ならいつも頭を悩ます問題にぶつかります。
これについては、別項で書く事にします。
美容外科の方がきれいになる?
同じ手術を、形成外科と美容外科で行った場合、どちらがきれいになるか、と訪ねる患者さんがいます。
形成外科は健康保険で手術をするのだから、美容的な要求をしてはいけないのでは?という方もいます。
しかし、実際には技術的な違いはほとんどありません。手術をする前の状態が、一般的にいって「醜状」であるか、「普通の容貌」であるか、機能的に障害があるかどうか、で保険が適応されるかどうかが決まるのであって、手術法が違うわけではありません。
※ その「一般的水準」をどこに置くべきかで、難しい判断をしなければならない事は上で述べました。
美容外科は玉石混淆
医者の技量は人それぞれですから一概にはいえませんが、少なくとも形成外科で数年以上の研鑽を積んだ医師であれば、一般的な手術は一応こなせるはずです。
しかし、美容外科はまだ大学病院などでの研修システムが整っていませんから、主に市中の美容外科で習うか、あるいは個人的に技量のある先生について修行する事になります。従って、どこで習ったかによって、うまい下手にかなり差があるだろうと予想されます。
中には、誰にも習わず研修もせず、いきなり開業してしまう医師もいたりします。
もちろん手術という「技能」ですから、執刀医による個人的な上手い下手もあるでしょうし、美的感覚やどこまでの結果を追い求めるかによって、手術に対する考え方も違ってくるかもしれません。
しかし一般的に考えて、ホームページに医師の名前が載っていないクリニック、載っていても手術経験の非常に少ない医師、経歴をきちんと書けない医師(某クリニックとか有名クリニック歴任とか)、内科・麻酔科・心臓外科など全く無関係の経歴が長い医師は、美容外科の技量が優秀であるとは考えにくく、普通は避けた方が賢明です。
症例写真を目安にする方もいるようですが、あれはレストランのメニュー写真や蝋細工の料理の模型のようなものです。あまり参考にならないと考えた方がよいと思います。
最近では匿名の掲示板や「口コミサイト」などに書かれた「患者さんの感想」のようなもの、を参考にする方も増えてきました。中には大江橋クリニックについて書かれたものもあるようです。
しかし、匿名の発言には責任がありませんから、そうした情報に惑わされると危険です。やはり基本は、一度診察を受けてみる事だと思います。その手間は惜しんではいけません。
機能優先か形態優先か
形成外科の「形」優先の考え方は、機能優先型の他の診療科としばしばぶつかり合います。
例えば、関節付近の傷をきれいに治すためには関節を固定して動かさないことが非常に重要ですが、整形外科的には傷跡のきれいさよりも関節の動きが低下しないほうが大切なので、できる限り固定を避けようとします。腹部外科手術の切開を形成外科が時間をかけて丁寧に縫合しようとすれば、重要臓器の手術が終わった後はできる限り早く麻酔から醒まして手術を終えたい外科医や麻酔科医にとっては、手術時間が延びて体調管理が難しくなるので困ったことと感じられます。
本当は美しい形態と健康な身体機能とは両立するはずなのですが、それを達成するのは容易なことではありません。
形成外科の守備範囲
日本形成外科学会の定義によれば、形成外科で扱う疾患の守備範囲は以下のようなものです。
※ 大江橋クリニックでは現在その疾患の手術を積極的には行なっておらず、主に他施設にご紹介する疾患は灰色表示しています。
※ 年齢や病変の部位・大きさなどにより入院・全身麻酔が必要な場合は、下記に表示してるものでも他院にご紹介する場合もあります。また、灰色表示してあっても状況により診療可能な場合もあります。
右の画像(日本形成外科学会のロゴマーク)をクリックすると、学会の制作した形成外科の紹介ビデオ(日本形成外科学会50年の歩み)がご覧になれます。
you tube映像(BGM音声が出ますのでご注意下さい)
- 新鮮外傷、新鮮熱傷(新鮮外傷・小範囲熱傷・広範囲熱傷・小児の熱傷・電撃傷・化学熱傷・凍傷)
- 顔面骨骨折および顔面軟部組織損傷(前頭骨骨折・鼻骨骨折・鼻篩骨骨折・眼窩壁骨折・頬骨骨折・上下顎骨骨折・顔面神経損傷・涙道損傷・唾液腺損傷・頭蓋・顔面骨欠損)
- 唇裂・口蓋裂(唇裂・口蓋裂・口蓋瘻孔・顎裂骨移植・鼻咽腔閉鎖機能不全)
※ 変形治癒唇裂等の二次修正で、入院を伴わない局所麻酔手術は可能です - 手、足の先天異常、外傷(合指症・多指症・その他の四肢異常・切断指再接着・手指外傷・変形・狭窄性腱鞘炎・ガングリオン・デュプイトラン拘縮)
- その他の先天異常(頭蓋骨縫合早期癒合症・顔面裂・先天性眼瞼下垂症・小耳症・副耳・耳垂裂・耳(前)瘻孔・埋没耳・その他の耳介異常・第1・第2鰓弓症候群・正中頚嚢胞・側頸嚢胞・漏斗胸・鳩胸・ポーランド症候群・副乳・陥没乳頭・臍突出症・臍ヘルニア・尿道下裂)
- 母斑、血管腫、良性腫瘍(色素性母斑・扁平母斑・太田母斑・異所性蒙古斑・脂腺母斑・表皮母斑・単純性血管腫・苺状血管腫・海綿状血管腫・動静脈奇形・リンパ管腫・母斑症・脂肪腫・粉瘤・類皮嚢腫・石灰化上皮種・耳下腺腫瘍・顎下腺腫瘍・異物肉芽腫)
- 悪性腫瘍およびそれに関連する再建(頭頸部再建・乳房再建・ボーエン病・ページェット病・基底細胞癌・扁平上皮癌)
- 瘢痕、瘢痕拘縮、肥厚性瘢痕、ケロイド(瘢痕・肥厚性瘢痕・瘢痕拘縮・肥厚性瘢痕・ケロイド)
- 褥瘡、難治性潰瘍(褥瘡・難治性潰瘍)
- 美容外科(重瞼術・隆鼻術・フェイスリフト・豊胸術・脂肪吸引・脱毛・ケミカルピーリング・体内異物)
- その他(顔面神経麻痺・顎変形症・両顎前突症・長顔症候群(long face症候群)・短顔症候群(short face症候群)・下顎前突症・開咬・小下顎症(小顎症)・上顎前突症・顔面片側萎縮症(ロンバーグ病)・後天性眼瞼下垂症・性同一性障害・毛巣洞・陥入爪・巻き爪・禿髪・義眼床手術・腹壁瘢痕ヘルニア・リンパ浮腫・腋臭症)
- 手技に関して(縫縮・植皮・皮弁・ティッシュー・エキスパンダー・マイクロサージャリー・レーザー治療・内視鏡手術・頭蓋顎顔面骨延長)


